竹沢うるま写真展
Kor La
Korは「廻る」、Laは「峠・山」の意。コルラとは、チベット仏教徒が祈りを捧げるために、聖地を時計回りに廻り、巡礼することを指す言葉。
「祈り」の意味を知るために、中国、ブータン、ネパール、インドなど、チベット自治区の外側を取り巻くチベット文化圏を旅した。
標高5000mの山々、マイナス20度の冬。険しい山を越え、深い谷を渡り、薄い空気に喘ぎながら旅を続け、その先で大地とともに生きる人々の祈りの世界に触れた。土のかおりがする表情、霜焼けで赤く染まった頬、谷に響く風のような歌声。「祈り」は大地に生きる人々の日常のなかに遍在していた。
チベット仏教圏にタルチョと呼ばれる旗がある。赤、黄、青、白、緑の旗に、経文とともに風の馬「ルンタ」が描かれている。タルチョがはためくたびに、祈りが風に乗って世界へと旅立つ。風の馬は世界を駆け、川を渡り、谷を越え、木々を揺らし、頬を撫でる。祈りの風は世界の隅々まで行き渡り、僕らの心を駆け抜ける。多くの問題を抱えながらも、この世界がかろうじて壊れずに繋ぎ止められているのは、もしかしたらそこに祈りの風があるからかもしれない。
旅の途中、僕は常に分水嶺の上に立っていた。左に行くのか右に行くのか。何度も立ち止まり、迷い、逡巡した。そんなとき、必ずそこに風が存在していた。分水嶺の上に危ういバランスとともに立っていた僕は、その風に導かれて、道を決めていった。
「祈り」の意味を知るためにコルラした旅の日々。多くの人々に出会い、祈りの姿に触れ、そのたびに心が震えた。その振幅を感じるたびに写真を撮り、積み重ねていった。今回展示される写真は、その集積である。
またそれらの写真は、いままさにこの瞬間、人々が過酷な大地で祈りとともに生きているという証であり、同時に、ひとりの写真家が確かにそこに存在していたという自身の存在証明でもある。
心の流れを感じ、写真に収めること。それが自身にとっての「祈り」の意味なのだと知った旅の記録。
写真家 竹沢 うるま
竹沢うるま写真展「Kor La」
品川ギャラリーS
2016/10/14-11/21